深夜。高層ビル立ち並ぶ一角。行き交う人はまばら。
　歩道にひとりたたずむ今日子。イライラしながら辺りを見回し、時計をみつめる。
今日子「もう、遅いわねえ。一体、何をしているのかしら」
　今日子はため息ひとつして、目の前にあるガードレールにもたれかかる。
　そこへ大きな音をたてて一台のバイクがやってくる。
　今日子、振り向いて音のしたほうを見る。
　バイクの男がヘルメットを脱いで、今日子に話し掛ける。
明「よう。お待たせ。今日もばっちり決まっているね」
今日子「もう、明、いつまで待たせるの。あなたって人は……」
明「さあ、早く乗れよ。ほら」
　今日子、言いたいことを言えなくてムッとしながらも、明が渡したヘルメットを受け取る。
明「まあ、そんなに怒るなよ。今日は張り切っちゃうぜ」
　今日子、苦笑いしながらも、まんざらでもなさそうな表情でヘルメットをかぶり、バイクの後ろ座席にまたがる。
　２人を乗せて走り去るバイク。

　バイクが、とあるホテルに滑り込む。
　バイクから降りる明と今日子。
　ホテルへ入ろうとする途中、明が突然立ち止まる。
今日子「ん。どうしたの？」
　明、しゃがみこんで台本を拾う。
明「何だろう。これ」
今日子「台本みたいね。何の台本かしら」
　明、台本を開いて中身を黙々と読む。
今日子「ねえねえ、何が書いてあるの？」
　明が読んでいる台本を覗き込む今日子。
明「これ、すごいぞ。俺たちのことが書いてある」
今日子「え、どれどれ」

　台本の最初の部分には、こう書いてある。
『深夜。高層ビル立ち並ぶ一角。行き交う人はまばら。
　歩道にひとりたたずむ今日子。イライラしながら辺りを見回し、時計をみつめる。
今日子「もう、遅いわねえ。一体、何をしているのかしら」
　今日子はため息ひとつして、目の前にあるガードレールにもたれかかる。
　そこへ大きな音をたてて一台のバイクがやってくる。
　今日子、振り向いて音のしたほうを見る……』

明「な。さっきの俺たちのことだよ。これってどういうことだろう」
今日子「やだあ。なんだか気味悪いわ。怖いから、そんなの捨てて早くお部屋にいきましょう」
　入り口に向かって歩き出す今日子。
明「おお。これはすごい！」
　台本を読みながら、驚きの声をあげる明。
　今日子、振り向いて明を怪訝な顔で見る。
今日子「どうしたの」
明「これから先の俺たちのことも書いてあるんだよ。そこには……」
　ニヤニヤしながら、今日子を見る明。
今日子「そこにはなんて書いてあるの」
明「それはこれからのお楽しみさ」
　含み笑いする明。
今日子「やだあ、明ったら。もう、なんて書いてあるのよ」
明「さあ、行こうか」
　明、台本を放り投げ、今日子の肩を抱いてホテルの入り口に向かう。
　地面に落ちた台本は、勢いでパラパラとページがめくられていき、最後のページでとまる。
　そこには……

（おわり）