混んでる電車である。信じられないかもしれないが、東京では、毎朝ぎゅうぎゅうなのだ。
　主要な駅には、人を電車に詰め込むための専門職の人が立っていて、電車に乗り切れずにドアに挟まれている人たちを無理やりに押し込んでいるのである。
　当然、女性も男性もごっちゃになりながらひしめきあっている車内である。体の動かしようもないのだ。痴漢も、あまりに混んでいる時には、さすがに手も出ないはずである。
　立っているのは比較的楽である。足をふんばる必要がないのだから。ふんばっていても、周りに押されて、抵抗のしようがないので、隣の人に体を預けていればいいからなのだ。
　そんな車内でも、どういうわけか座っている人もいるわけである。席に座れた人は、数少ない幸運者である。おそらく始発駅から乗り込んだ人か、偶然にも目の前の席の人が立ちあがって降りていって、周囲の席とりの攻防戦を制して、みごとに滑り込んだ人である。
　しかし、座ったからといって楽ではない。足は立っている人に踏まれ、股の間に知らない人の足が割り込んできたりするからである、時には、ひざの上に座られたりもする。覆い被さって後ろの窓に手をつく人もいる。それから、問題は降りるときである。途中駅で降りる場合は、人の壁を叩き壊して出て行かなくてはいけないのだから、まさしく試練である。

　なぜ混むのか。それは、都心にある会社の出社時間に間に合うように、郊外から人が集まってくるからである。出社時間というのは、たいてい午前９時であろう。その時間ちょうどに着こうと考えている会社員たちは、午前８時55分に都心駅に到着する電車に、申し合わせたように乗るのである。
　さらに混む原因は、到着駅の出口との関係もある。頭が普通の会社員は、到着駅の出口に最も近い車両に乗り込もうとするのである。同じ車両でも、ドアひとつ近いほうに乗るのだ。だから、同じ電車に乗っても、がらがらの車両とそうでないのとがあるのである。極端なところでは、ドアひとつ隣でも、ぎゅうぎゅうとがらがらの差があるほどである。

　朝の通勤ラッシュもすごいけど、深夜の混雑も閉口する。
　東京では、夜遅い時間になればなるほど、電車が混んでくるのだ。不思議でしょ。
　なぜなら、頭が普通の会社員は、終電までには帰ろうと思って、遊んでいるのである。繁華街では、たいてい夜０時まで店が開いているし、にぎやかなのだ。
　それなのに、電車の本数は、夜遅くになるにつれ、少なくなっていくのである。ここに需要と供給が反比例する傾向が起きるのである。
　夜遅くなるにつれて、帰ろうとする人が増えていくにもかかわらず、電車はどんどん減りつづけるわけだから、車内は混雑でぎゅうぎゅうになる。当然だ。
　このことを改善しようとしない電鉄会社の上層部の頭はかたくなである。あくまで、午後６時ごろが帰宅のピークと考えているような列車本数のダイヤに組んでいるのである。普通の頭の人なのであろう。

　オフピーク通勤という消極策を打ち出すほどである。つまり、混んでいる電車には乗らないで、通勤時間をずらして、すいている電車に乗ってください、ということである。しかし、そんなのは、普通の会社員には無理である。会社で決められている出勤時間を守らないのでは、落伍者の烙印が捺されてしまうからだ。人生の転落である。
　だけど、ボクは実践している。
　出勤時間を約20分から１時間ほど遅くして出勤している。
　おかげで、ボクは遅刻常習犯となって、落伍者の烙印なのだ。つらい。