「合格です。どうぞ」
　入り口の人にそう言われて、ようやく中に入れてもらえた。
　どのくらい待たされただろう。かなり待たされたような気がする。
　細長い廊下を案内人の後ろからついていきながら、ここまでの道のりに思いを馳せた。という間もなく、広い部屋に通された。
　ドアを入って正面はすべてガラス張りの窓で、その窓を背にして立派な机がひとつ。そこの椅子に座っている人がゆっくり体をこちらに向け、
「志願者は君かね」
と言った。貫禄のあるヒゲの男だった。
　やかましい機械の音が絶え間なく聞こえてくる、と思って窓の外の景色を見ると、とてつもなく大きな歯車が何十、何百と回っていた。
「けっして楽な仕事ではないよ」
　真剣な表情でヒゲの男は言った。
「はい、覚悟しています。私は御社のために身を粉にして働くつもりでいます」
　すらすらとよどみなくそう言えた。昨日練習したとおりに。
　ヒゲ男はわずかにうなずいて、再び窓のほうに向き直った。
「ついてくるように」
　案内人に言われて、いよいよだと思った。
　この先で私は、柔軟剤の入った液にひたされた後に、瞬間凝固装置でひとつの型に納められる。
　そして、さっき見た、あの大きな歯車のひとつに部品として取り付けられることになるはずである。
　私は、社会という歯車の歯のひとつになるのである。