しかし、世の中というものはどんどん便利になっていくものじゃ。
わたしもこの齢になって、はじめてコンピューターという代物に
触れてみたのだが、こんな箱に何ができるものかと初めは思っと
った。ところがじゃ、いざ、茶の間に置いてみるとこれはなかな
かの重厚感があって、下手な絵画を飾っておくよりも、この方が
部屋がひきしまって精神修養にもなるというもんじゃ。

もちろん、これが部屋の飾りにしかならんとは思っとらん。この
箱がいかに偉大なものかということは200頁程の説明書をほんの5
冊ばかり読んだ後に、３ヶ月間パソコン教室で修行し、朝昼晩と
３食きっちりと食事を摂っておれば、ほんの少しはわかることだ
ろう。いや、たとえその偉大さが少しも解らなかったとしても、
わたしにはよく解らなかったということが解るであろう。

そいうわけで、目の前には偉大な箱が鎮座しておるのだが、20歳
になる孫娘が、インターネットをやったらどうかと、しきりに奨
めてくるのだ。インターネットとはなんだと訊いたら、ワールド
ワイドウェブだという。横文字で言われてもわたしにはちんぷん
かんぷんだから日本語で言ってくれと頼むと世界に広がる蜘蛛の
巣だと答えた。これをやると世界中からの情報が入手できるんだ
とも言うんだが、蜘蛛の巣が広がっていたら手に入るどころか、
逆に身動きもとれなくなると思うのはわたしだけであろうか。

ともかく、孫に手伝ってもらってその蜘蛛の巣とやらに絡まって
みたのだが、これはいかん。小さな文字がいっぱい並んでて、老
眼のわたしには眼鏡かけててもほとんど読めん。その上、眼がチ
カチカして疲れてきてしまって、２時間ほど昼寝をさせてもらっ
た。なるほど、これは睡眠不足で悩んでいる人には役に立ちそう
だ。

文字が並んでいるのは、老いたわたしにはつらいから、動く映像
はないのかと尋ねると、孫娘はあるにはあるが、まだ技術不足だ
と言う。そういうものかも知れん。まあ、日本の技術をもってす
れば、近い将来には動く映像が滑らかに表示されて、文字ではな
く音声で最新ニュースを届けてくれることになるであろう。そう
なれば、別に、ニュースだけでなくて、演芸番組や教養番組もで
きるに違いない。そういうのが沢山できれば、当然その案内表と
いうものが必要になるはずだから、毎朝配達人が届けに来てくれ
るようになるかも知れん。そうすれば、この箱と小さな文字の書
いてある案内表だけで、様々な情報が得られるようになることだ
ろう。

新聞とテレビは消滅してしまうことになるが、これも世の中の流
れなら仕方のないことだ。