朋美は待ちつづけていた。来るあてもない彼のことを待っていた。
　彼へのプレゼントの花束を持って、夕方からずっと駅のホームでたたずんでいた。
　降っていた冷たい雨が、街の明かりが灯りはじめる頃から雪に変わっていっても、ただひたすらに彼への思いを胸に、朋美は待ちつづけていた。

「俺、小さい頃、雪かきが好きだったんだ」
と言った彼の言葉を思い出す。
「へえ、そうなの」
「うん、邪魔な雪をさあ、俺の力でどけていくわけだよ。雪かきしたところは、とっても歩きやすくなるんだよな」
　彼はそう言ってふっと遠い記憶の中にひたっている目をする。
「でもさ、最近は雪かきが嫌いになったっていうか……」
「うん」
「せっかく降った雪を俺の手で動かしちゃうっていうのが、もったいないように思えてきたんだよね」
「うんうん」
「雪は降ったまま、そのまんまに残しておくほうが美しいと思うんだよね。人の手で道の端に積み上げられた雪は、それはもうすでに雪ではなくなっていて、ただの邪魔なゴミになっているように見えるんだ」

　ホームには屋根があったが、時折吹く強い風で雪が舞い込んできていた。
　朋美の持っている花束にも舞い込んだ雪がうっすらと積もっていた。
　次の電車で彼が来なかったら今日は帰ろう、と朋美は思っていた。
　やがて、雪のカーテンの向こうから電車がやってきた。
　電車は速度をゆるめることなく、通り過ぎていった。
　持っていた花束の花びらひとつが、走り去る列車を追いかけていった。