「・・・というわけで、新製品の水虫薬の名前は、『ダマリン』に決まりました」
「いいんじゃないの。でも、あれだねえ、ちょっと物足りない感じじゃない？」
「と言いますと？」
「ほら、よくあるじゃないの。なんとか配合ってやつ。あれをつけといたほうがいいんじゃないかなあ。ほら、『タウリン1000mg配合』とか、『ジンクピリチオン配合』とかいうやつよ」
「はあ、そうですねえ。でも、今度のこの薬の成分は、『リドカイン』と『アラントイン』というものなんですけど、どちらがいいでしょうねぇ」
「うーむ、いまいちだねえ」
「いまいちですか」
「どちらもインパクトに欠ける。あまり効き目があるようにも思えない」
「そう言われましても・・・」
「どうだい、この際、作ってみたらどうかな」
「へ？」
「なんかメチャクチャ効き目のありそうなものを配合していることにするのよ。本当は配合していないのよ。でも、ネーミングで人をひきつけるっていうこともあるわけなのよ。『クレソン配合』とかね」
「『クレソン』ですか。それって野菜のですか」
「もちろん例よ。そういうのを考えてほしいのよ。なんか、こう、ものすごく水虫に効きそうなやつをね」
「あ、それなら、こんなのどうでしょう。『硝酸ゾール』配合、なんて。効きそうじゃないですか」
「いいねえ。そういうやつを待っていたのよ。『硝酸ゾール』ねえ。うまいことを考えるものだねえ。うん、おおむねいいんじゃないかな。でも、もうちょっと長いほうがいいねえ。『硝酸なんとかゾール』といきたいねえ」
「硝酸クレゾール・・硝酸マグマゾール・・・硝酸ナゾール・・・」
「なんかいい案ないかねえ」
「あのぉ。。『硝酸ミコナゾール』っていかがでしょう」
「お、いいじゃない。ミコナって何だね」
「そのぉ。。うちの妻の名が、美奈子といいまして・・・」
「ほほう、そういえば君は新婚だったなあ。なるほど、妻の名を商品名に含めたいというその気持ちはいいなあ」
「いえ、そういうわけではなくて、その、妻がメチャクチャ強くて、喧嘩すると手がつけられないほどでして、この水虫薬にはピッタリかなあ、なんて思いまして・・」
「はは、それはいい。傑作だ。今度の商品には、『硝酸ミコナゾール配合』ということで決まりだな」
「はい、とてもいいと思います。前回の失敗作の挽回はできると思います」
「そうだな、前の商品につけた『尿素配合』のようなことはないだろうね」
「ええ、あれはちょっと、ふざけすぎてました」