２

　ユウタはもう何でも一人でできると思っていた。もう、赤ち
ゃんじゃないんだからと。小学３年生になるユウタは、近所の
１、２年生から、ユウタ兄ちゃんと呼ばれて頼りにされている。
まだまだあいつらはガキだから、オレが面倒みてあげなきゃい
けないなと思っていた。
　そんなユウタだから、楽しみにしていた名古屋への旅行が、
父親の仕事の都合で中止になりかけた時に、
「大丈夫だよ。一人で行ってくる」
と言ったのは当然のことだった。
　そもそも旅行へ行くことになったのも、ユウタが言い出した
ことである。
　名古屋に住んでいるユウタの父方の両親の家で飼っていた猫
が、ついこの間３匹の子猫を産んだのだ。それを聞いたユウタ
が、うちで１匹もらおうよと言って、なんだかんだと文句を付
けてくる両親を説き伏せることに成功し、週末を利用して名古
屋までもらいにいくことになったのだ。ちなみにこの一件で、
ユウタの１ヶ月のこづかいが 1000円から500円に値下がりして
いる。減った500円は、もちろん猫の餌代になる。

　９月の２週目の土曜日、ユウタは母親に見送られながら、新
幹線で東京をあとにした。夏休み気分が抜けきらない状態での
一泊だけの初めての一人旅である。ユウタの軽い荷物の中には
向こうについたら渡すように言われている一枚の封筒と着替え、
それに携帯ゲーム機が入っている。
　名古屋までの道のりは、わずか１時間半・・・のはずだった。
　ユウタは列車が走り出すとすぐに携帯ゲーム機を取り出して
遊んでいたが、しばらくすると、ふと思い出したように荷物の
中をごそごそと探しはじめた。新幹線が新横浜を通過するころ、
「忘れた・・・」
とユウタは小さくつぶやくことになってしまった。

（次号につづく）