悩める蛙男のおかしさ
　自分は他人からどう見られているのか。小心者がばれていないだろうか、とか、変態おやじだと思われていないだろうか、とか、本当はさみしがりやだということに気づかれていないだろうか、とか、他人の目はとかく気になるものだけど、とりわけこの小説の主人公の「他人の目が気になる度」は、針が振り切れるほど高いに違いない。
　なんてったって蛙男である。
　ふと自分の手を見ると、ヌラリとした緑色の皮膚がツルリと光っていて、指の先は丸くて爪が無いかわりに、指と指の間には水かきがついているのである。自分自身がそうなっているのを初めて見た主人公は、当然驚く。しかし、他の人は、特に驚く様子を見せていない。どうやら他人には自分が蛙になっているのが見えないらしい、と主人公は気づく。
　蛙男になった主人公は、仕事の関係で蛙の着ぐるみを着ることになったり、なんとなく泳ぎたくなってプールへ行ったりする。そんな折にプールでひとりの女性と親しくなる。しかし、その女性はとんでもない秘密を持っていたのであった……。
　全体としてはホラー系の小説ではあるけれど、主人公はユーモラスな行動をとって読者に笑いを誘う。写真に撮ったらどうなるだろうと考えて、全裸になってポーズを決めるシーンは圧巻だ。
　ともかく、僕らはいつも行動に悩み、容姿に悩み、人生に悩む。そして、他人から奇妙に見られないようにするために必死になって平静を装う。でも、悩みとしては蛙男ほどではないよなあ、となんだか気楽な気分にさせてくれる小説かもしれない。

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